ヒグマとエコツーリズム

 こんにちは。大雪山案内人の佐久間です。層雲峡ビジターセンターに加えて、今季はヒグマ情報センターの活動のお手伝いをしております。

 今年度からヒグマ情報センターの運営主体が替わり、現場に来ないと情報が取れない「情報センター」から、積極的に情報発信をする情報センターに衣替えをしようとメンバーが頑張っており、筆不精な私も時々ブログを書くことになりました。文字ばかりになると思いますが、ご勘弁を!

 

 さて、「情報発信をする情報センター」とともに、今後の活動の柱になるのがエコツーリズムです。エコツーリズムの定義は人によってさまざまですが、発祥の地と言われる東アフリカや中南米では、絶滅の危機に瀕する動植物を保護するのに必要な資金を、欧米から訪れる観光客が落としていくおカネでまかなうというシステムを構築し、後にそれが「エコツーリズム」と呼ばれるようになったようです。

 

 まだ「エコツーリズム」という言葉がなかった時代に、初めてこの旅行形態を体験したのが東アフリカでした。ケニヤの首都ナイロビのスワヒリ語学校を卒業した直後、友人から「ゴリラとチンパンジーを見に行かないか?」と誘われ、類人猿に興味があったわけではなかったのですが、面白そうなので一緒に旅をすることになりました。1989年のことです。

 ケニヤから、内戦が終わったばかりのウガンダに入り、世界を震撼させた大量虐殺がその後起きるルワンダを抜け、ザイール(現・コンゴ民主共和国)に入るというルートでした。現在ではあちこちで反政府勢力と政府軍の軍事衝突があり、とても旅行などできる地域ではありませんが、その当時は東西冷戦時代の末期で、かろうじて熱い戦争にはなっておらず、呑気に旅を楽しんでいました。

 映画『霧の中のゴリラ』で有名なダイアン・フォッシーが研究の拠点にしていたヴィルンガ火山群のカリソケ研究センターでマウンテンゴリラを観察し、タンガニーカ湖畔・マハレ国立公園にある京大の研究施設でチンパンジーを追いかけ、ザイールでは、現・京大総長の山極壽一さんが研究拠点にしていたカフジビエガ国立公園で東ローランドゴリラを見ました。

 もちろん観光ツアーなどありませんから、鉄道と路線バスを乗り継いで移動し、現地のマーケットで食料を買い出しして、薪でご飯(インディカ米)を炊くというスタイルです。ほとんど車が通らないデコボコ道を延々と歩いたり、自転車よりも遅い速度で移動するボロ船に乗ったり、ヤギや鶏と一緒にトラックの荷台に積み込まれて移動することもありました。

 そんな「ツアー」でしたが、人間に最もちかいチンパンジーやゴリラと接するのはとても刺激的でした。望遠レンズがなくても写真が撮れるような距離で、シルバーバックのドラミングを見れるのですから、すごい迫力です。チンパンジーの観察は群れの中にすっかり入ってしまうので、食べているフルーツが頭上からポロポロ落ちてきます。拾って食べて見たけど、とても酸っぱくて食べれませんでした。

 

 ルワンダやザイールでのツアー代金は当時一日100ドルでしたが、これだけの体験を得られるのであれば、貧乏旅行者でも100ドルくらいは安いものです。そしてツアー代金の一部が、絶滅に瀕している彼らの保護に役立つのであれば、何かいいことをしたような気にもなります。つまり、利用者(旅行者)と管理者がウィンウィンの関係を作れる「ハッピー産業」がエコツーリズムという仕組みです。

 

 このエコツーリズムの仕組みを大雪山でも作れないかと考えています。気候変動の影響でダメージを受ける動植物の保護のような大問題にはいまのところ対応するのは難しいですが、年々侵食され拡幅する登山道の保全や、拉致化が進むテントサイトの植生復元、携帯トイレブースの増強のような「対処療法」には対応できるのではないかと思っています。

 

 とくに高原温泉の沼めぐりコースは、ヒグマ情報センターが「関所」になっており、来訪者のコントロールが容易であること、亜高山帯に湿原が広がっていることから変化のある自然景観が楽しめること、ヒグマを観察できる機会が多いことなどから、新たなエコツーリズムプログラム開発の可能性が大きいと予想されます。

 エコツアーの先進地では、ツアーによって生まれる雇用で、関係者が人並みの生活を送れるようになったり、ガイド収入を地元に還元することで、経済の循環も生まれています。その「はじめの一歩」として、沼めぐりコースを始めとするエコツアーを積極的に作っていきたいと考えております。みなさまよろしくお願いいたします。

f:id:higuma-center:20190719130906j:plain

雪渓上の親子熊

f:id:higuma-center:20190719131001j:plain

カフジビエガ国立公園の東ローランドゴリラ

f:id:higuma-center:20190719131048j:plain

マハレ国立公園のチンパンジー

f:id:higuma-center:20190719131135j:plain

チンパンジーの撮影